有限会社生物振動研究所
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開発秘話

 果実や野菜などの農産物の品質はいろいろな因子によって評価できます(図1)。例えば、味、色、硬さなどです。味では酸っぱい、甘い、苦い、などがあります。最近は近赤外光という、目には見えない赤外線を果物にあてて果実の甘さを予測する装置が、いろいろな選果場に導入され、「糖度12度以上」などとスーパーで表示されるようになりました。しかし、糖度は12度以上でも、硬い果物は美味しくありません。また腐っても糖度が高いままの果物もあります。一方、果物の中には熟すと色の変わるものがあります。トマト、リンゴなどです。これらは、選果場で画像解析と言う方法で果物の色を判断して、選別しています。しかし、熟しても色の変わらない、あるいは変わりにくい果物、例えば、メロン、キウイ、アボカド、スイカでは画像解析で品質を判定することが出来ません。    図1 農産物の品質判定に用いられる因子の例


 果物は、花が受粉してから種子ができるときに、種子の周りの細胞が発達して出来るものです。種子ができる前に動物たちに食べられてしまうと種子を遠くに撒いてもらうと言う本来の目的が達成できません。ですから、種子が未熟なときは果物は硬くて美味しくないように出来ていますが、種子が出来上がると、周りの細胞が柔らかくなり、食べられるようになります。このように動物に食べられるように出来た部分を果肉と言います。果肉は熟すと内部の細胞の糖度が上がり酸度が減り、美味しくなります。
 私は、これまで果実の硬さを果実を傷つけず(非破壊)、果実に触らずに(非接触)測る、レーザードップラー法という方法を開発してきました。
 あるとき、山形大学の村山秀樹先生が「櫻井先生のレーザードップラー法でセイヨウナシ「ラフランス」の食べ頃が予測できませんか?」と質問されました。レーザードップラー法で果実のどんな品質でも測定できると、その頃思っていた私は、即座に「やってみましょう!きっと出来ますよ。」と言ってしまいました。
 ところが、いくら測っても、ラフランスのあのとろけるような食感をレーザードップラー法で検出することが出来ません。大変困りました。そこで考えました。食べれば分かることなのですが、とろけるようなと言っていても、その程度は人間にしか分からない。数字として装置ではかれるものではない。そんなものを目標に研究していても埒が明かない。セイヨウナシのとろけるような食感を数字にしたいな!そこで論文を読みましたが、食感の研究をしている人たちは、人にサンプルを食べさせてそのときに発生する音をマイクロホンで取る方法しか使っていませんでした。この方法には致命的な欠点がいくつかあります。
(1).人によって噛み方や口の大きさが違うので、得られるデー   タがばらばらである(個人差が大きい)。
(2)唾液の多い人、少ない人もいるし、食べている間に食品に唾  液がしみこみ、発生する音が刻々と変わっていく。
(3)マイクのおき方が少しでも変わると、得られるデータが変わ  るので、Aと言う研究室で取られたデータと同じものが、Bと   言う研究室で取れない(再現性がないといいます)。
(4)マイクで取られる音は口の外に出てきた音なので、食べ方、  つまり、口をあけて食べる人、閉じて食べる人、少し開けて食  べる人など、人による差が大きすぎる。
(5)頬や耳の穴にマイクロホンを当てたり突っ込んだりして音を  とった人がいますが、口で発生した音が骨を伝わるとき、伝わ  りやすい音しか伝わらず、頭蓋骨で共鳴して特定の音が大き  く増幅されたり、あるいは高周波(高い音)が骨に吸収されて  耳まで伝わらない。 
 つまり、食感を物理的に正確に再現性よく測定する方法がなかったのです。どうすればいいのかな?来る日も来る日もそのことばかり考えていました。大体なぜ、食感を測定しようとする研究者が少ないのだろう?その答えがある日分かりました。食感を表現する言葉の数が国によって著しく違うのです(図2)。


    図2 外国と日本の食感を表現する言葉の数


 英語では食感を表す言葉は2語、フランス語も2語、イタリア語では1語、そしてなんとアイスランド語では食感を表す言葉がないのです。それに比べ、わが日本ではちょっと考えただけで10個以上あります。「パリパリ」、「バリバリ」、「ポリポリ」、「ボリボリ」、「カリカリ」、「ガリガリ」、「コリコリ」、「ゴリゴリ」、「シャキシャキ」、「ジャキジャキ」、「シャリシャリ」、「ジャリジャリ」、「サクサク」、「ザクザク」、ほらこれでもう14語もあります。面白いことに、この食感を表す言葉は、一つの語を2度重ねる言葉が多いです。しかし、外国の人がこれだけ違う日本人の感じる食感を言葉で表現出来ていないとすると、外国の人はこれらの食感の違いを感覚として捕らえていない可能性があります。感覚で違いの分からないものを物理的に測定することは出来るのでしょうか?日本人が食感を研究すると外国の研究に負けないすばらしい研究成果が出るのではないかと思いました。
 しかし、良い方法がなかなか思い浮かびませんでした。ある日、歯の詰め物がはずれました。放っておくと虫歯になります。そこでは医者に行きました(図3)。

 図3 新しい食感測定装置を思いついた歯医者での出来事


 歯医者で詰め物のはずれた歯の型を取り、新しい詰め物を作ってもらうことになりました。それには少し時間がかかります。1週間後に又歯医者に行きました。新しい詰め物は出来ていました。歯科衛生士さんが言いました、「今から新しい詰め物を入れますから、もし大きいようでしたら言ってください。」。新しい詰め物が私の歯のくぼみに入れられました。少し大きいようです。そこで「少し大きいです」と言うと、「ハイ分かりました、少し削ります。」と答えました。研磨機で「ウィーン」と言わせながら、詰め物を削っているようです。「ハイこれでどうでしょう?」また聞かれました。今度はいいようです。「ハイこれでいいです。」と言った瞬間私の頭には大きな謎が生まれたのです。「どうしてそんな微妙な違いが歯で分かるのだろう?」多分衛生士さんが削った大きさは1ミリの何十分の一だったかもしれません。でもそれが私の歯で分かるのです!私はすぐに、歯の下にびっしり張り巡らせれている神経がそれを感じていると理解しました。「そうだ!歯の下にはすごい神経が張り巡らせれている。だから、虫歯は痛いし、歯医者は痛い。と言うことは食べ物を噛んだ時にこの神経がその食感を感じていないはずがない。」その瞬間に私の頭には図4に示した装置が浮かびました。歯に似せたものがプローブです。ピストン
 
図4 食感測定装置の検出部の模式図と歯の構造の比較


は歯の骨に相当します。神経が圧電素子です。圧電素子とは、結構日常生活に登場します。ガスコンロの火をつけるときに、カチカチ音がしますが、昔は圧電素子をたたいてそのときに生じる高電圧で火花を飛ばして、ガスに着火していました。つまり、圧電素子は叩くと電圧が発生するのです。それなら、プローブとピストンの間に圧電素子を挟んで、食物、食品に差し込むとその振動が電圧の変化となって記録できる、と思いました。そこで図のような装置を使って、モモに差し込み、そのときに発生する電圧の変化をテープレコーダに録音しました。その時の音を今でもはっきりと覚えています。モモの果肉にプローブが刺さっていくときに、ミシミシと言う音が聞こえたのです。これは普通耳では聞いたことのない音でした。でもその瞬間、「これで食感が測れる」と確信しました。つまり耳でも聞こえない音まで録音できているのです。そしてこの音(あるいは振動と言ったほうが良いのかもしれません)は、歯が食品を貫通するときに発生している全ての振動を捉えているはずだ。そもそも食感は耳だけで判断しているのだろうか?外国の研究では、耳に大きな音を聞かせておいて食物をかませても、被験者はちゃんとその食感を判定できたと報告されています。つまり、耳だけで判断しているのではない。歯でも食感を判断しているのです。そこで将来のことも考え、この方法に名前をつけました。音響的食感測定方法(Acoustic Measurement of Crispness,AMC)、です。


                図5 AMC装置の概略図


 図5の装置は少し意味があります。普通の人ならピストンなど使いません。モーターでプローブを駆動させる装置を作ります。しかし、私はピストンを使い、ポンプで駆動する装置にしました。なぜならプローブを動かすのにモータを使うと、その音が圧電素子に伝わってしまうからです。圧電素子で捉えた振動は電圧の変化となってコンピュータに取り込まれます。そこで、フーリエ変換と言う操作で、どのような音がメインかということを解析することになりました。しかし、すぐにフーリエ解析では食感信号の解析に不向きであることが分かりました。

        図6 完成し販売されている食感測定装置


 現在は図6にあるような装置を完成し、販売しています。ピストンはシリコンオイルで駆動します。シリコンオイルは右端のポンプから供給されます。得られた信号は左のPCにおくられ、エネルギーの値として食感値が数字として表示されます。