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果実の食べ頃はどうやって決まるか?


――細胞壁の軟化とその測定法――

                    櫻井直樹(広島大学大学院生物圏研究科)

2007929日(土)岡山大学で開催された、
日本植物生理学会市民講座「植物科学をもっと楽しもう2007」の講演から)

 最初に私の履歴をご紹介します。1950年に大阪府河内市鴻池新田で生まれました。ここには江戸時代の豪商鴻池善右衛門という人のお屋敷があって、私はそのお屋敷の中ではなく外で生まれました。小さい時にバイオリンを習っていて、なかなか練習しなくて泣きながら練習していたことを覚えています。でもこれが後に私の研究に何らかの影響を及ぼすようになりました。高校2年生の時にギターを買ってもらいました。1969年、大学に入り、物理学科を受けたのですが、受かってみたら生物学科と書いてあったのです。他人だと思っていたら自分だったわけで、まあ、いいかと思って、浪人するのもいやだったので、そのまま生物学科に入ったのです。1972年、3年生の時、研究室を選ぶ際に植物の細胞壁の物理的性質、細胞壁の硬さを計っている研究室がございました。その計り方に興味を持って吸い寄せられるように入ってしまいました。細胞壁の研究をした後、広島大学に行き、10年後にカリフォルニア大学デービス分校に留学しました。1年間の留学の間に、トマトの硬さを計ってほしいという依頼があり、その研究がきっかけで今日の話をするような果実の食べ頃を判定する技術の開発に結びつきました。2005年、果物を振動させて成熟度を計る会社を立ち上げて社長になっております。

 果実や野菜の品質はいろいろな方法で判定できます。近年、スーパーマーケットでは、糖度12度以上、14度とか書いていますが、私たちの目には見えない赤い光で、その中を透過させたり反射させたりして、中の糖度、甘味を計っています。それによって甘くない果物が私たちの口に入ることはなくなりましたが、残念ながらこの装置では腐った果物は除けません。またメロンや皮が厚いものでは、皮に光が通りませんので甘さを判定することはできません。また緑から赤になるような果実では、画像解析によって熟度、成熟度を解析する技術もございます。しかしキウイのように全く色の変わらないものはその方法では判定できません。

 野菜や果物の品質判定の一つに硬さがあると思います。未熟な果物は食べて固いですし、腐ってくると軟らかく溶けてしまいます。必ず食べ頃は適度な硬さになっているわけですから、その硬さを計れば品質を判定できます。これまで棒状のものをリンゴの中にギュッと押し込んで、どれくらいの力でリンゴに刺さったかという力で見るような方法はありましたが、そうするとすべての果物に穴があいてしまいますから売れません。硬さを非破壊で計る技術は開発されていませんでした。

 私は果物の硬さを音響振動で計るという測定方法を開発しましたが、音響というところに楽器をやっていた影響が出ているのです。果物の硬さがわかると何がわかるのか。一つは食べ頃がわかります。適度な硬さになったことを実際に切ったり食べたりしなくてもわかれば、これは食べ頃だな、まだだな、熟れすぎだなということが硬さからわかるわけです。穫り頃も、わかります。果物の熟度が硬さからわかります。

 実はこの技術の開発の発端になったのは1991年、カリフォルニア大学の先生にトマトの硬さを測定してほしいと依頼されたことがきっかけになっています。カリフォルニアのデービスという町の直径100キロの円周の中には世界の加工用トマトの4分の1を生産するという、一大トマト生産地です。加工用トマトというのはケチャップ、トマトソース、缶詰のトマトや料理用のトマトでお馴染みのものです。そういうトマトをたくさん生産している場所に近いところですからトマトの研究をすることは大事なのですが、実は私を呼んだ先生はトマトを全く研究していなくて、私にお願いだからしてくれと言われました。そこでああ、いいですよと言ってやりました。

 その方法ですが、トマトのスライスを台の上に載せまして、ジャバラの空気を抜きますと縮みます。そうすると針がトマトのスライスの中に突き刺さっていくわけです(図1)。

5ミリ突き刺しなさいと命令を出すと5ミリのところでピタッと止まる。その時、ここにセンサーがありまして、どれくらいの強さでトマトに針を突き刺した時に力がかかっているかということを感じることができます。硬いトマトは突き刺すのにずいぶん力がいります。軟らかいトマトはほんの少しの力で済みます。そういう力をここで感じるようにしてあるわけです。たとえば緑、ピンク、赤とだんだんと熟度が上がっていき、その時に針を突き刺し、縦軸に針を突き刺した時の力、横軸に突き刺した後、どれくらい時間がたったら、その力がどう変化したかということをグラフに描きます(図2)。

硬いトマトには大きな力がいりますから、大きな力から始まります。最初は力に抵抗しているのですが、ずっと針を突き刺したまましておくと、トマトにだんだん抵抗力がなくなっていき、力がだんだん下がっていきます。最初の力はピンクのトマト、つまり少し軟らかくなったものは少し低い。赤いトマトはもちろん一番低いです。これによって突き刺した最初の力がトマトの緑から赤、熟度が進むにつれて小さくなる。これを物理学的な言葉で言うと「弾性率が低下する」と言います。バネの力が弱くなっていくのと同じです。それだけではなく、直線を見ると下がり始める時間に違いが出てきます。力の下がり始まりの時刻が緑、ピンク、赤になるにしたがって速くなることは「粘性率」、粘土がだんだん軟らかくなっていくことと同じ意味です。この測定方法を「応力緩和法」と言います。大学4年生の時の先生、先輩の山本先生が開発された方法です。私はこれをトマトに応用してトマトの硬さを弾性率と粘性率が下がっていくのだということを発見して雑誌に書いて発表し、とても有名な雑誌に載りました。それで鼻高々で日本に帰ってきたのです。

 帰ってきて8月はじめ、お盆の時、と一緒にお墓参りにいきました。電車に乗って横に座って、その時、が「アメリカに行って何してきたの」と聞くので、「こういうことをやって切って針を刺したら応力がどうのこうの」という話をしたのです。は何と言ったか。「なんというしょうもない研究をしてきたのか」と言われたのです。次に追い打ちをかけて「世界中で毎日、トマトを切っているおさんが知っていることを難しい言葉で研究するのは税金の無駄だ」。税金の無駄というのは大阪出身の親の最低評価の言葉です。すごく有名な雑誌に載ったんだぞと言いたかった言葉を、グッと飲み込んで、そうかもしれない。切ってわかることをああだ、こうだというのは面白くない。よし、そしたらトマトに針を刺さずに計ってやろうと電車の中で思ったのです。

 それから2年間、スピーカーとマイクロフォンを使って音波の進み方とか速度とかいろいろやったのです。でもどうしても納得のできる研究成果が得られない。2年たって、もうやめようと思いました。これ以上やっていてしょうがない。なぜかというと私の本業じゃない。偶然、頼まれてやったことです。スピーカーにトマトを当てて、これが熟れているか、熟れていないか。そんなことは誰もしないでしょう。だから世の中の役に立たないからこの発表でやめようと。1994年、京都で国際園芸学会が開かれました。日本で国際学会が開かれるのは近年、珍しくなくなりましたが、いい機会でいろんな人が来てくれるので、そこで発表をしたり、皆さんの発表を聴いたりすることは勉強になります。ここで発表して、この研究は終わりにしようと決心して行ったのです。発表は檀上に立って皆さんにお話する口頭発表と、ポスターをつくってその前に立ってお客さんが来たら興味のある人は聴いて、興味のない人はそのまま行くという発表があります。私はポスター発表でポスターの前に立っていたのです。

 松下パナソニックの和田さんが来られまして、名刺交換して、いろんな説明をしたのです。いっぱい説明したつもりなのに「櫻井さんは、結局、何がしたいのですか?」と言われたのです。ちっとも伝わっていない、と思いました。でも、和田さんはもっと深く考えておられたのです。私は音波とか音とかばかり考えていたのですが、和田さんは「これは振動ではないのかな」と思っておられた。僕はわからないから「果物の硬さを切らずに計りたいのです。」この一念です。そうすると和田さんが「いい方法かもしれませんから帰ったら資料を送りましょう」と言って別れたのです。普通、こう言って別れた後、1枚のペラペラの紙が来たり、なしのつぶて、だったりすることが、よくあります。本当に送ってくれるのかなと思っていたら、1週間後、こんな分厚い封筒が届きました。私は夢中で読みました。その中にレーザードップラー法というのがありました。今でも覚えていますが、スパイができるという装置を販売しているパンフレットがありました(図3)。

実際に売っているのです。某国で2000万円で売っている機械です。レーサードップラーという装置のレーザーを窓にあてる。私の声が空気を震わせて窓のガラスを震わせています。向こうの方の屋上から、その窓を目掛けてレーザー光を出す。レーザー光は反射して元に戻りますが、私がしゃべっている振動も一緒に乗ってレーザー光が拾っていく。その振動をスピーカーに流すと私の声が聞こえるわけです。盗聴できるというわけです。2000万円です。なかなか高いです。窓の微弱な振動を検出すると話し声が聞こえる。レーザードップラーは非常に微弱な振動を検出する方法として、実際に工学系の、CDが回っている時にぶれていないか、車のギアボックスの中の軸が、なるべくスムーズにならないといけませんから、歯車の形を考えています。こういう形にしたら軸がぶれないかなということをレーザードップラー装置で計っているわけです。工学系の人たちはよく知っている方法なのですが、もちろん私は全然知りませんでした。

 それでそれを使って果物に非常に微弱な振動を与えて、その振動を果物のてっぺんにレーザー光をあててレーザードップラー振動計で計ると果物がどのように振動しているかということがわかるわけです(図4)。

どのように振動するかということが果物の塾度、硬さに関係しているのかどうかを知りたいので研究を始めたわけです。実際にこれが初期の頃、フジというリンゴの振動を計った時の最初の頃のデータです(図5)。

このデータは振動装置に低い振動から高い振動まで順番に当てていくわけです。最初はブーンという音からウーンという音まで高い音に振動させていくと、縦軸にリンゴはどのように振動したかをとっています。強く震えると上に、震えなかったら下へ線が上下します。そうすると低い音からだんだん高い音に来て、リンゴはある特定の周波数のところで強く振動することがわかりました。これを「共鳴」と言います。共鳴という現象はバイオリン、ギターの木の箱の中で行われていることと同じですね。音を大きくするためにギターやバイオリンの箱は共鳴箱として使われているわけです。これと同じことです。バイオリンやギターは実は特定の音に共鳴しないように、いろんな音に共鳴するように、わざわざ複雑な形をとっていますが、リンゴは簡単な丸い形をしているわけですから特定の音、90Hz、1秒間に90回震えるような振動で大きく振動する。90回くらいの振動は私たちの耳に十分聴こえます。チェロの低音くらいです。ここに2番目のピークがあります。これは大体800Hz、1秒間に800回振動している時にリンゴが一番よく振動するというグラフです。800Hzはどれくらいの音か。ラジオなどで時報を、ポッ、ポッ、ポッ、ピーという音を出します。ポッポッポッという音が440Hzです。ピーという音が880Hzです。ピーという音にリンゴはよく反応するということになります。

 このリンゴを実験室のテーブルの上に置いておいて、10日目、21日目に同じリンゴをレーザードップラー装置で計ると、これが10日目、21日目というふうに最初、800〜900Hzにあった共鳴点がだんだんと低い音の方にシフトしていくことがわかりました(図6)。

また21日目では高い周波数ではもう共鳴しなくなっていることもわかりました。

 なぜこういう方法で果物の硬さ、熟度がわかるのか。未熟な硬い果物は鉄球のようなものです。これをピンと弾くと硬い音がします。高い共鳴振動数を持っている。過熟になると中は腐ってしまいますが、ゼリーのようなものだと考えてください。手でピンと弾いてもボヨヨンという感じで音が聴こえるかどうか知りませんが、ゆっくりと振動します。だから共鳴振動数は低いわけです。硬いものが軟らかくなる間に、適熟、食べ頃の硬さがあるはずですから、食べ頃の共鳴振動数が、必ず存在するはずだというのがアイディアです。実際に物理の理論ではこの硬さは振動数の2乗×重さの3分の2乗でわかると書いてあります。これで振動数を計れると果物の熟度がわかるという理論的な背景がわかりました。

 そこでメロン。高いですね。夕張の方に卒業生が就職して夕張メロンを6個送ってくれましたし。うれしくてね。一つ目食べたら早かった。1週間おいて食べたら全部だめだった。すごく悔しくて、よし、メロンから始めようということです。雅春秋は高知でつくられているエメラルドメロンという名前の品種で何十個と買ってきて、0日目から16日目くらいまでテーブルに置いておいて毎日計るわけです。毎日計りながら3個ずつ食べていくという実験をしました(図7)。

おいしい実験だと思うでしょう。とんでもないですよ。ここらへんは腐っているわけです。腐っても食べなければいけません。だから人生と同じで、酸い甘いもかみ分けながら実験しないと、とれないデータです。ベネチアとかいろんな品種を使いましたが、大体、直線的に硬さが変化していくことがわかりました。

 その時に食べた状態を点数で評価します。未熟だなと思ったら5点、丁度いいなと思ったら3点、腐ってへんな臭いがして、いやだなと思ったら1点をつける。そういう実験をやりながら硬さを計っていくと、硬さと実際に食べた時の評価がぴったり合います(図8)。

硬いものは未熟で軟らかいものは過熟で、丁度いいところに硬さが直線的に、いい関係にあります。驚いたことに同じメロンを切って糖度を計ったのです。糖度と実際に食べた時の関係は、全く相関がないのですね。糖度ではメロンの場合は熟度がわからないこともわかりました。このグラフは大事で適熟、食べ頃を2〜3の範囲だとすれば、この線を逆に見ていますと、5〜8くらいのところが食べ頃の硬さだということがわかるわけです。逆に言うと9、10の硬さを示すメロンはまだ早い。8くらいだとそろそろ、5だと早く食べなさい、4になったらだめですよということが、このグラフからわかるわけです。実際にたくさんの品種のメロンをやってみました。みやび春秋をベネチアと比べますと、雅春秋はゆっくりとやわらかくなります(図9)。

ベネチアは急激に落ちてきます。これを見てみると、雅春秋はゆっくりと軟化が進みますから、食べ頃、ニコニコマークの期間が長い、8日間。しかしベネチアのように早く軟化するものは食べ頃は短い。これは全部実験のために私は食べました。何が一番好きか。もちろんベネチアです。これはすばらしい。この食べ頃の時に食べるととろけるような食感、甘味、香り、申し分ない。雅春秋はずっとキューリみたいで、いつまでも硬くて本当に熟したのかなと。多分ここらへんだったのだろうと思って食べる。本当にうまいのはベネチアです。だけど今、日本のメロンはどのようになっているか。これがだんだん増えています。なぜですか。流通から考えると長い間、食べ頃のものを売っていればクレームが少ない。だから生産農家にこれをつくってくださいとお願いします。食べ頃が短いのを売っていると文句が来るわけです。そうすることによって確かに食べ頃は長くなるかもしれませんが、おいしいメロンが人々の口に入らなくなってきました。それでこの10年間、高級メロンと呼ばれる出荷量、販売量が落ちていることを大手スーパーの販売の方が言っておられました。つまり流通とか小売りの論理でものを選んでいると、本当においしいものが消費者の口にあがらなくなるという一つの例です。

 それではいかんとベネチアをちゃんと食べ頃であることを知らせるような装置をつくりたいということで装置をつくりました(図10)。

名前は「食べ五郎」(笑い)。1号機は木琴のバチのようなものでメロンをポンと叩かないといけないのでカッコ悪い。何とかしようと思って、置けば計れる、精度はレーザードップラー装置と同じでボタンをちょっと押すだけで、食べ頃は2日後ですと出るような装置をつくりました。

 非破壊、一つの果物をずっと壊さずに計っていくことによって新しいことがわかりました。キウイを一個ずつ計ると予想外のことがわかりました。キウイを収穫直後に計ってみます(図11)。
横軸は室温においてからの日数です。最初はすぐに下がりますが、少し遅れてもう一度下がる。どうも第一番目の軟化と、第二番目の軟化がキウイにはあることがわかりました。今まで一個ずつ潰して計っていたら、こういうことがわからなかった。でも1個ずっと追いかけて計ることで、一個ずつばらばらに軟化していくことがわかりました。緑の線は食べ頃の硬さです。収穫直後から室温に置いたものでは食べ頃の日数がバラバラです。キウイを収穫後1カ月、1°Cで保存したものを室温に持ってくると、すべて4日目か5日目に食べ頃が生じます。つまりキウイを収穫してすぐ市場に出荷すると、食べ頃がバラバラで皆さん不満があります。熟れすぎているか酸っぱいか、硬い。低温で保存して出荷するとおいしいことがわかります。出荷する前に硬さを計っておいて明日食べられる、明後日食べられるというシールを貼ることもできます。

 現場の方で畑で計れる装置がほしいという要望が来ました。何のために。果物の硬さから穫れ頃を知る、果物の生育状況を知りたいのだそうです。畑で使える携帯型の装置をつくりました(図12)。
こういう形をしています。重さの代わりに直径を使って硬さを計ります。これは温室内のメロンの熟度の分布です(図13)。

6〜7月まで毎日計りました。そうすると青いのは硬い。黄色か緑は軟らかい。一つの温室の中でも硬いところと軟らかいところと、バラバラなんですね。メロンを左手の北側から摘み取るとよいことがこのデータからわかるわけです。

 もう一つ驚いたことは、1日の間にメロンの硬さが大きく変わっていることがわかりました(図14)。

朝6時に計った時には硬いのが昼の3時になるとものすごく軟らかくなった。また晩になると元へ戻ります。もちろん温度が上がったり下がったりするのですが、なぜそんなにメロンが昼間に軟らかくなるのか。おそらく昼間、盛んに水蒸気が蒸散している。そうすると土から水の供給が追いつきませんから、おそらくメロンの中の水分が使われていく。そうすると果実が軟らかくなりますが、夜になると蒸散が起こりませんから土から水が供給されて行き渡ると、また再び硬くなることを繰り返すのだろうと思われます(図15)。
 果物は何からできているか。メロンの例をとりますと食べる部分、果肉組織と言います。細胞の固まりが食べている部分です(図16)。
細胞の一つひとつを見ますと核があったり、タンパク質があったり液胞があります。細胞の液胞も植物の特徴であります。果物が細胞からできていて、私たちが食べる瞬間まで生きています。生きているか死んでいるか、どこで見るか。細胞膜が自分で膜の機能を失った時、その時に死んでいると言えます。生きている細胞には張りがあります。細胞内部にはいろんなものが溶けていて浸透圧を生じる環境が整っていますから水を吸う力があります。ところが細胞壁がありますので、水を吸おうと思っても細胞壁が抵抗している。抵抗する圧力のことを壁圧と言います。壁圧があるから膨圧が生じるということです(図17)。

たとえば私が壁を手で押そうとする。すごい力をかけているのです。壁があるからです。もし窓を開けて空気を押したら何も力はかかりません。だから膨圧というのは壁圧、細胞壁があるから生じている。高校では膨圧のことを習いますが、それは細胞壁があるから生じているということはあまり言いません。植物が張りがあったり、鮮度が高い、膨圧を生じているという状態は細胞壁があるから生じているということになります。

 そんなに強い細胞壁は何でできているか。それは長分子がたくさんつながってできている。この細胞壁は大まかに言えばペプチン、ヘミセルロース、セルロースの3つの成分からできています。それはそれぞれの長い分子ですが、ジクザク型をしていたり、櫛型をしていたり、直線的な分子だったりします(図18)。

こういうものが糖、一つひとつはぶどう糖のようなものですが、ペクチンだったら6000個、ヘミセルロースだったら4000個くらい、セルロースだったら1万個くらいつながった分子です。これを多糖類と言います。ジュースとかコーヒーとか、紙パックを買われたら、多糖類という表示があるかもしれません。大部分にペクチンの分子が入っています。それによって、とろみ感をつけます。それは大きな分子だからです。そういう糖がたくさんつながった大きな長い分子が細胞壁の中にあります。細胞壁はセルロースが束になって存在していますから繊維状になります。その間をギザギザ分子、櫛型分子とかを含めて、それで細胞壁ができています。

 細胞壁は何の役に立っているか。膨圧が生じているから細胞に張りを与えるという細胞壁の役割があります。それによって細胞に形を与えます。セルロースは大体横に並んでいますと細長い細胞になる。縦に並ぶと平たい細胞になります。ランダムに並んでいると丸い細胞になります。つまりセルロースの向きによって細胞壁の形によって細胞の形が決まっているということになります。それによって重力に耐える構造を植物に与えているのが細胞壁です。

 細胞壁の硬さは調節できます。硬くしたり軟らかくしたりすることによって成長をコントロールすることもできます。このように細胞壁はいろんな役に立っていますが、果物は食べ頃になって軟らかくなる時には細胞壁が軟らかくなっていることが知られています。それを私たちは今まで計ってきたわけです。細胞壁の硬さを支配しているものは酵素と呼ばれるものです(図19)。

ペプチンなど分解する酵素。これらは細胞壁に細胞の中から送りこまれて分解してしまいます。そうすると細胞壁内で埋めている分子がきれぎれになって細胞壁が軟らかくなるわけです。しかし本当に果物を軟らかくしているのは何か。それはエチレンです。エチレンという植物ホルモンをかけると、それによって細胞壁を分解する遺伝子が活発に発現してきます。その遺伝子によって細胞壁の分解酵素ができて細胞の中から細胞膜を突っ切って細胞壁に分泌され、それが細胞壁を分解して果物を柔らかくしています。

  以上で私の講演を終わります。ありがとうございました。

質問コーナー

質問1 先生が悔しい思いをされました夕張メロンは長い日持ちのするメロンですか?
桜井 夕張メロンは赤肉メロンで、私が今までやってきたのは全部、青肉というもので、夕張メロンは高くて購入できておりません。
質問2 メロンの個体としての反応ですね。皮が厚かったり、どこの部分が最も敏感に反応するのですか?
桜井

私の研究ではありませんが、物理学者の方に、どこの状態を私たちは計っているかを研究してもらいましたら、大体、真ん中へんなのだそうです。真ん中へんの状態を計っている。全体ではなく、皮でもなくて中層の近くだそうです。

質問3 そういうことになりますと、皮の厚いメロンといろいろあります。スイカもそうです。中のところで計って全体としての食べ頃がわかるのかどうか。一般に皮が薄いのがいいと言われていますが。
桜井 実は、共鳴周波数のピークを見ていきますと、1番目のピークが皮の性質を示していることが、最近わかってきたのです。それと2番目を相互に評価すると総合評価ができるようになるかもしれませんが。皮の厚さを計ったり、測定することは、まだやっておりませんので、これから実験していきたいと思います。
質問4 一箱の果物の中からどれが食べ頃かを調べるような簡単な装置は?
桜井 ぜひつくりたいです。あの装置をあるテレビのクイズ番組に出させていただいた時、飯島愛という、今、休業しているタレントが、一言こう言われました。「この機械が冷蔵庫にあったらいいのにね。」全然そんなことを考えていなかったので、それはいいアイディアだなと思っていると大企業からこの装置は冷蔵庫に入りませんか、と聞かれました。いくらでつくればいいですかと聞くと、3000円と言われました。3000円でできるかどうかわかりませんが、それくらいになったら家庭用につくりたいと思います。


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有限会社生物振動研究所
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